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「今すぐ死にたい」にどう回答する?「仏教」と「精神医学」の連携

「死にたい」社会。宗教と精神医学の連携が必要な背景

ネットでお坊さんに相談するQ&Aサイトhasunohaが開設されて7年。相談件数は35,000件を越えました。相談には、いじめ、虐待、パワハラ、親を殺したいなど、私たちが日々ニュースで見聞きする事件に直結している内容も少なくありません。

さらに、「死にたい」「リストカットがやめられない」といった生死に関わるSOSも存在します。

相談者の投稿を見ると、「死にたい」という希死念慮のある方の中には、うつ病や統合失調症など精神疾患を患っていると告白される方がいます。希死念慮と精神疾患との相関性や、一刻を争う場合の対応方法について、相談に乗るお坊さんも理解を深めていくことが必要だと考えています。

投稿の中には、お坊さんに相談する前に今すぐ診療を受けた方がいいと思われるものがあります。一方で、何度診療を受けても、カウンセリングを受けても改善できずに苦しんでいるうちに、最後にhasunohaにたどり着きましたと、お坊さんに打ち明けにくるものもあります。

このように、宗教と精神医学とが交差する場面がhasunohaに増えてきていることを踏まえ、hasunohaでは回答される僧侶側にも精神医学の基礎知識や精神疾患について学び、宗教と医療が連携してセーフティネットを強化していく必要性を感じています。

仏教と精神医学の連携セミナー開催

そこで、実際にhasunohaに寄せられる「死にたい」というメッセージに対し、私たちはどう対応すべきなのか。

回答僧侶の方を中心に「仏教と精神医学の連携セミナー」を企画し、6月27日に東京都渋谷区の寺子屋ブッダLABでセミナーを開催しました。

臨済宗建長寺派林香寺住職で、精神科専門医でもある川野泰周氏を講師としてお招きし、「自殺リスクの対応や精神疾患の基礎知識」について講義をしていただきました。

講演を聴いた僧侶の方からは、「『医師で僧侶』の立場からの言葉は非常に腑に落ち、納得、安心できました。根幹には仏教の精神をもちつつ、最新の臨床データと方法論を用いて対応する師のやりかたは最も優れている方法なのではいかと感じました。」と満足度の高い内容となりました。

自殺リスクのある人の特徴

「自殺は、今抱えている辛さからなんとか逃れたいという問題解決が目的。問題なくして死ぬ人はいないんだということをまずは念頭に置く必要があるのではないか」と提言する川野師。

2008年の統計によると、日本人で死にたいと一度でも感じた人は約20パーセントにのぼり、さらに日本人が自殺で死ぬ確率は約1~2%。日本人の死因の中では交通事故死よりも断然多いのだそうです。

自死に至る直接的な原因は人によって様々ですが、自殺リスクを上げる要因は次の3つの関係が切り離せません。

自殺潜在能力

自殺潜在能力とは、怖がらずに死を受け入れる能力のこと。死が怖くなくなってくる人は自殺のリスクが上がります。一度でも自殺企図がある、首吊り未遂や薬を飲んで死のうとすることを繰り返すことで恐怖感が減弱します。

さらに、「手首を切りました」「薬を多く飲みました」といった発言は、「ほのめかし」として、これまで援助者の注意を引くためのものだと言われてきました。

しかし川野師は、「今は(ほのめかしをされる方の)自殺率が圧倒的に高いことがわかっています。繰り返す自傷行為は、痛みに対しての知覚が麻痺している。自殺のほのめかしは、死の前兆と捉える必要がある」と警鐘を鳴らしています。

また、自殺とは直接的に関係していなくても、アルコールや薬物の乱用、摂食障害による過食や拒食といった自身の健康を害する行為。

ヘルニアやリウマチといった慢性疼痛性疾患、暴力被害や加害経験、頻回の外科手術など、これまで強い痛みを耐え続けてきた体験。

他者の死や身体損傷を目撃する体験をしてきた人たちは、本能的に死への恐怖や、身体が傷つくことへの抵抗感がなくなっているため、自殺リスクが高まる要因だと言います。

所属感の減弱

所属感とは、社会とのつながりのこと。社会とのつながりを弱める要因としては、職場や学校でのいじめの被害やパワハラ、家族との葛藤や虐待があります。これらを受けると孤立、引きこもりなど社会との関係が断たれていきます。

負担感の知覚

「自分が生きていることが迷惑になっている、いないほうが周囲は幸せになれる」といった認識が自殺リスクを高めると言います。

家族から介護を受けているご高齢の方は、介護という負担を若い人たちにかけているという感覚を持ちがちです。また、事業の失敗や多重債務によって家族や社会に迷惑をかけているという感覚が自殺の引き金となるケースがあります。

また、うつ病や統合失調症の症状として、罪業妄想を引き起こすこともあります。自分の行為や内面的な心の動きに罪悪感をもち、自分自身を責める妄想です。

うつ病や統合失調症に関しては、「自殺に一気に引き寄せる妄想の症状が出る場合には、すぐに医療機関への受診を指示しなければならないケースがある」とし、精神科入院を判断するときに精神科医も使っている指標についても示されました。

精神疾患の特徴と対応方法

セミナーの後半では代表的な精神疾患である「うつ病」「統合失調症」「PTSD」の概念や、特徴、精神疾患が想定される人への対応法などを学びました。

うつ病

うつ病は100人に3~7人が罹患。思考力の低下が原因で、仕事を失敗してしまう。楽しいことをやりたくない。美味しいものを美味しく感じられない。また、自分が悪いんだという形成不能な強い思い込みが症状として見られます。

統合失調症

幻覚(特に幻聴)と妄想の症状が特徴的な精神疾患。身の回りの整頓ができなくなる、洗濯の仕方がわからなくなるといった生活障害、自分の状態が異常だと考えられなくなる病識の障害を併せもつのが特徴。

この20年で新薬の開発や社会的ケアの進歩により、早期治療、早期介入によって社会に出て普通に生活できるようになってきました。

統合失調症の方が罹患しないためにはストレス軽減が必要であり、「みなさんが相談に応じるということが本当に発症してしまう手前で食い止めることにつながるかもしれない。」と示されました。

PTSD(外傷後ストレス障害)

あまりにも辛い出来事を記憶の淵に埋没させるため、自分ではコントロールできず、体調が悪い時やストレス、お酒などがきっかけで、フラッシュバックが起こりリアルタイムで体験しているように感じる症状。

トラウマになるのは、1回きりの衝撃ではなく、繰り返される心的外傷体験、幼少期の虐待、いじめなどがあり、とくに幼少期のトラウマは周囲では気づきにくいのが特徴。症状としては、不眠、過度な警戒心、うつ症状などが見られます。

「死にたい」への対応・連携

川野師は「死にたい」というメッセージに対して、次のことをお話されています。

相談者との絆

「自殺未遂者に関する自殺意識調査では、70パーセント以上の人が『死にたい』と思ったときに、誰にも相談できなかったと言います。

つまり『死にたい』という気持ちを明らかにしてくれたということは、この人ならば気持ちを理解してくれるかもしれないと勇気を持って告白をしてくれたということであり、まずはそのことに感謝を示せるかどうかが、私たちと相談者とが絆を結べるかに関わってきます。」

そして、「死にたい」というメッセージを受け取った場合に、

・医学的にはやってはいけないとされる受け答え方、対応方法
・相談者との対話の中で支援者(回答者)にやってほしいこと

をお話いただきました。

支援資源の確保

また、「支援者側にも限界があることを知っていただきたい。」ともお話されました。

「中には、もうつなぎとめておくことが今自分の実力では難しい場合がある。精神科などの医療機関で薬の処方をしてもらう必要があるのではないかというケースがある。

その場合のために支援資源を紹介しておくことが大事である。支援の資源。他に相談可能な窓口など、いざというときの最終ラインを提示しておくこと。」

として、自殺防止支援者の抱え込みや燃え尽きに注意するよう呼びかけました。

hasunohaでは、ネットでのやりとりで解決できない場合の具体的な支援をしてくれるお寺や行政機関を「仏教駆け込み寺」としてご案内しています。

「書いて伝える」hasunohaがトラウマを乗り越えるきっかけに

今回のセミナーでは、川野師よりhasunohaだからこそできるお話がありました。

過去の辛い体験、ストレス、トラウマをもつ人の心の支えとなりえる体験として、PTG(心的外傷後成長)と呼ばれるものがあります。トラウマを乗り越えた人は、一般的なトラウマのない人よりも心の成長を得られていることを統計で導き出した結果です。

そして、そのための有効な手法として「感情筆記法」を紹介いただきました。

「実はトラウマなどは、自分が過去の感情に立ち返って人に伝えることでその方の治癒につながるのだということを知っておいていただきたい。

お坊さんへの相談を文章で表現するhasunohaでは、『文章を書いて伝える』こと自体、自分の内なる気づきにつながり、自分の行動パターンを客観的に見るきっかけになる」と川野師は言います。

「(トラウマになっている)被害を受けたことに対して洞察するというのは大変勇気がいることなんですが、それをすることによって、被害を受けたという事実が単なる受け身ではなく、能動的に自分がそれを解説するという主体性を持つことにつながるのです。」

自らのタイミングで自分の辛い経験を言語化し、課題をメタ化する(客観視する)。そこに仏教の智慧と慈悲(思いやり)によるアドバイスをお坊さんから受ける。

これによって、心の平安を取り戻し、人間的成長につなげていく。
hasunohaには、そんな効力が期待できるのです。

hasunohaの今後の取り組みについて

今回のセミナーは、会場から遠方のhasunohaの回答僧侶の方も受講できるよう、インターネットでも配信しました。聴講された方からは、「地方在住の僧侶は興味があるセミナーなど、ただ単に距離が遠いことで受講を断念しています。インターネットを通して学べるシステムを利用できる機会を設けていただいたことにお礼申し上げます。」とのコメントをいただきました。

セミナー後の質疑応答では、川野師に対して「僧侶の修行に行く前と行った後で医師としての心境の変化はあったか?仏教の教えなどが生かされていることがあるか」とのやりとりもありました。

今回のセミナー内容は、事例や具体的な対応方法、臨床データをまとめたものをhasunohaの回答僧侶の方に共有し、hasunoha以外でもお寺での対面相談、傾聴に活かしていただけるようにします。

今後もhasunohaは、医学知識や傾聴、グリーフケア、カウンセリング、マインドフルネスなどの勉強会を通じて、僧侶の方が相談者と対話するときの対応(回答)の質を向上できるような支援を継続していきます。さらに、支援者である僧侶の方が一人で抱え込んでしまわないような限界設定のサポートや、医療機関、自殺防止NPOなどと連携を強化することで、社会のセーフティーネットとしての役割を担って行きたいと考えています。

そして、本当に辛い時は「つらい」と言っていい場所、お坊さんたちに安心して悩みや思いを打ち明けられる場所、hasunohaが多くの方の心のよりどころとなれる存在でありたいと心から願っています。

文・hasunoha編集部
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